こんにちは!
今回は、賃貸住宅を退去する際に、原状回復費用を不動産仲介業者に過剰請求されないように実践したことについてご紹介します。
現在は一戸建てに住んでいますが、その前は賃貸住宅に4年間住んでいましたので、その時の経験をもとにしています。
まず結論として、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」を確認して、借主の原状回復義務をしっかりと理解しました。
その結果、借主が負担する必要のないハウスクリーニング費用(33,000円)を断ることができました。
さらに、その他の過剰な請求も防ぐことができ、敷金は全額返還されました。
賃貸住宅の退去時に原状回復費用を過剰に請求される原因の一つは、私たちを含め多くの人が賃貸住宅を退去する経験が少ないためと考えられます。
経験が少ないと、原状回復費用について、どこまでが借主の負担で、どこからが過剰な請求なのかを見極めるのが難しくなります。
そのため、業者の言うことをそのまま信じたり、提示された請求書に違和感があっても、適切に反論ができず、そのまま受け入れてしまう場合があります。
今回は、賃貸住宅を退去した経験をもとに、以下の内容についてご説明します。
- 借主の原状回復義務とは
- 私たちが行った退去時の手続き
もし、これから賃貸住宅を退去する予定がある方や、退去時に不安を感じている方がいれば、退去手続きを進める際の参考にしていただければと思います。
退去時のトラブルとは
消費生活センターなどには、賃貸住宅に関する多くの相談が寄せられており、退去時の「原状回復に関する相談」が多く見られています。
以下に示すように、2017年度から2022年度のおいて、原状回復に関する相談が全体の約4割を占めています。

原状回復に関する相談事例をご紹介します。いずれも、請求内容に納得できなかった方々の実際のケースです。(独立行政法人国民生活センター「住み始める時から、「いつか出ていく時」に備えておこう!」より抜粋)
- 入居年数:2年
- 家賃:5万円
- 請求項目と金額:
ハウスクリーニング(約5万円)、鍵交換(約1万円)、クロス修復(約1万円)、フローリング修復(約2万円)など、合計10万円
- 入居年数:25年
- 家賃:7万円
- 請求項目と金額:
床の張替え、建具の塗り替え、畳表替え、クロス塗装、ハウスクリーニングなど、合計約19万円
- 入居年数:不明
- 家賃:6万円
- 請求項目と金額:
ハウスクリーニング(約4万円)、壁クロス補修(約1万円)、床補修費(約1万円)、シャワーヘッド交換(約1万円)の、合計約7万円
これらのトラブルを防ぐためには、借主の原状回復義務をしっかりと理解しておくことが重要です。
原状回復義務とは
そこで、借主の原状回復義務について、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」に基づいてご説明します。
このガイドラインには法的な拘束力はありませんが、過去の裁判の結果などを考慮しているので、有用な判断基準となります。
まず、結論として、「原状回復義務が発生するケース」と「借主負担費用の考え方」について、以下のフローチャートにまとめました。
これから詳しく説明していきます。

- 退去時に損耗・毀損がなければ、もちろん原状回復の義務はなく修繕費用は発生しない
- 損耗などがある場合でも、経年変化や通常損耗であれば、原状回復の義務はなく修繕費用は発生しない
- 損耗などが故意、過失、善管注意義務違反などによる場合、原状回復の義務はあり修繕費用は発生する
- 原状回復の義務がある場合でも、経年変化や通常損耗による価値の減少分については、借主は負担する必要はない
- 修繕範囲は、損耗部分を補修するために必要な最低限の範囲が基本となる
原状回復の定義
退去時、設備に損耗などがあった場合でも、必ずしも借主が原状回復義務を負う必要はありません。
借主が原状回復義務を負うのは、以下に当てはまる場合です。
原状回復の定義
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
そのため、自然的な劣化・損耗等(経年変化)や通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)の場合、借主には原状回復義務はありません。
これらの費用は入居中に支払った賃料に含まれています。

通常のハウスクリーニングや鍵交換なども、次の入居者のために行うものなので、借主は費用を負担する必要はありません。
ここで重要なのは、「故意・過失、善管注意義務違反などによる損耗・毀損」と「経年変化、通常損耗」の線引きです。
以下の表に、ガイドラインに記載させている貸主負担と借主負担の具体例を示しました。
退去時には、修繕内容が借主負担なのかを確認することが重要です。
貸主の負担 | 借主の負担 | |
床(畳・フローリング・カーペットなど) | ・畳の裏返し、表替え(特に破損していないが、次の入 居者確保のために行うもの) ・フローリングのワックスがけ ・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡 ・畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠 陥による雨漏りなどで発生したもの) | ・カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カ ビ(こぼした後の手入れ不足等の場合) ・冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害 を与えた場合) ・引越作業等で生じた引っかきキズ ・フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込 んだことなどによるもの) |
壁、天井(クロスなど) | ・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気 ヤケ) ・壁に貼ったポスターや絵画の跡 ・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不 要な程度のもの) ・エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡 ・クロスの変色(日照などの自然現象によるもの) | ・賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ(使 用後の手入れが悪く、ススや油が付着している場合) ・賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミ( 賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを 怠り、壁等を腐食させた場合) ・クーラーから水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐 食 ・タバコ等のヤニ、臭い(喫煙等によりクロス等が変色 したり、臭いが付着している場合) ・壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけた もので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの) ・賃借人が天井に直接つけた照明器具の跡 ・落書き等の故意による毀損 |
建具等、襖、柱等 | ・網戸の張替え(破損はしていないが、次の入居者確保 のために行うもの) ・地震で破損したガラス ・網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの ) | ・飼育ペットによる柱等のキズ・臭い(ペットによる柱 、クロス等にキズが付いたり、臭いが付着している場 合) ・落書き等の故意による毀損 |
他の設備 | ・専門業者による全体のハウスクリーニング(賃借人が 通常の清掃を実施している場合) ・エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着してい ない場合) ・消毒(台所・トイレ) ・浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次 の入居者確保のために行うもの) ・鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合) ・設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの) | ・ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(賃借人 が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合) ・風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(賃借人が清掃 ・手入れを怠った結果汚損が生じた場合) ・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の 毀損 ・鍵の紛失または破損による取替え ・戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草 |
原状回復費用の考え方
借主に原状回復義務がある場合でも、必ずしも修繕費用を借主が全額負担する必要はありません。
また、修繕範囲は、損耗部分を補修するために必要な最低限の範囲が基本となります。
これらも業者からの過剰な請求に対応するために理解しておくことが重要となります。
借主の負担割合
借主に原状回復義務がある場合、必ずしも修繕費用を借主が全額負担する必要はありません。
修繕費用の内、経過年数による価値の減少分は借主は負担しなくても良いからです。
クロスを例にあげて、具体的に借主の負担費用を説明します。
・入居年数:4年
・修繕費用:6,000円
・クロスの耐用年数:6年
クロスの耐用年数を考慮すると、下図に示す通り、クロスは6年かけて徐々に価値が減少していくと考えます。退去時の経過年数は4年なので、経年変化によりクロスの価値は6分の4だけ減少したことになります。経過年数による価値の減少分は4,000円なので、借主の負担費用は残りの2,000円となります。
退去時の経過年数は、クロスを張替えた時点から入居時点までの期間(1年)と住居年数(4年)を合わせた5年となります。経年変化によりクロスの価値は6分の5だけ減少したことになります。経過年数による価値の減少分は5,000円なので、借主の負担費用は残りの1,000円となります。

ただし、以下の場合は経過年数を考慮することが適さないため、修繕費用は借主が全て負担することになります。
- フローリングなどの長期間使用できる設備の部分的な修繕
- 襖紙、障子紙、畳表などの消耗品
それぞれの設備について、経過年数を考慮するかどうかを以下の表にまとめました。
考慮する場合は、耐用年数を記載しています。
借主の負担割合を検討する際にご活用ください。
経過年数の考慮 | 借主の負担単位 | ||
床 | 畳 | 考慮しない(畳表) | 原則1枚単位 |
カーペット、 クッションフロア | 耐用年数:6年 | 毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体 | |
フローリング | 部分補修の場合、考慮しない 全体を張替える場合、 建物の耐用年数を用いる | 原則㎡単位 毀損等が複数箇所の場合は、居室全体 | |
壁、天井 | クロス | 耐用年数:6年 | ㎡単位または壁一面分 |
建具 | 襖紙、障子紙:考慮しない 襖、障子等の建具部分、柱:考慮しない (全体を修繕する場合は建物の耐用年数を 用いる) | 襖:1枚単位 柱:1本単位 | |
他の設備 | ■耐用年数5年のもの ・流し台 ■耐用年数6年のもの ・冷房用、暖房用機器 (エアコン、ルームクーラー、ストーブ等) ・電気冷蔵庫、ガス機器(ガスレンジ) ・インターホン ■耐用年数8年のもの ・主として金属製以外の家具 (書棚、たんす、戸棚、茶ダンス) ■耐用年数15年のもの ・便器、洗面台等の給排水・衛生設備 ・主として金属製の器具・備品 ■当該建物の耐用年数が適用されるもの ・ユニットバス、浴槽、下駄箱 (建物に固着して一体不可分なもの) | 設備機器:補修部分、交換相当費用 | |
修繕範囲
借主に原状回復義務がある場合、修繕範囲は、損耗部分を補修するために必要な最低限の範囲が基本となります。
例えば、借主がクロスを一ヵ所を損傷させた場合、部屋全体を張り替える必要はありません。
しかし、損傷部付近のみを張り替えた場合でも、張替えが明確に判別できるような状態ならば、原状回復義務を果たしたとはいえません。
そのため、クロスの張替えにおいては、通常、㎡単位または壁一面分を単位とするのが一般的です。
それぞれの設備について、修繕範囲の単位を先ほどの表に併せてまとめていますので、修繕範囲を検討する際にご活用ください。
退去時の実際の手続き
借主の原状回復義務について学んだ後は、実際に退去手続きを進めていきました。
退去の連絡
まずは、不動産仲介業者に電話で退去の意思と退去日について連絡しました。
その際、敷金の全額返還についても確認しました。
ハウスクリーニング費用(33,000円)と部屋の修繕費用(部屋の状態を確認した後、必要な場合)を差し引いた金額が返却するとのことでした。
私たちは、退去時の原状回復義務について事前に学んでいたため、ハウスクリーニング費用が次の入居者のためのものであることを理由に断りました。
さらに、退去立会い時、原状回復義務以外の修繕内容も請求される可能性があると考え、事前に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に従って、判断するように伝えました。
大掃除
退去立会い時、業者から原状回復の指摘を受けないように、部屋を隅々まで掃除しました。
また、仮に業者が不当な請求を考えていたとしても、部屋を丁寧に使用していることが伝われば、請求しづらくなると考え、徹底的に行いました。
以下が主な掃除内容です。
掃除内容 | |
風呂 | 鏡、壁、床の水垢や赤カビの除去 |
台所 | 換気扇、壁の油汚れの除去 シンクの水垢の除去 冷蔵庫跡地の埃や汚れの除去 |
トイレ | 便器内部の尿石や水垢の除去 |
洗面所 | 鏡や洗面台の水垢の除去 洗濯機跡地の埃や汚れの除去 |
玄関・ベランダ | 砂や埃の除去 |
部屋 | 壁、床のこびり付いた汚れの除去 窓枠の埃や砂の除去 窓の表面汚れの除去 エアコンのフィルターの掃除 |
退去の立ち会い
退去日に業者と立ち会いを行い、部屋の状態を確認してもらう直前に、改めてガイドラインに沿って判断してもらうように伝えました。
結果として、部屋の原状回復についての指摘はなく、ハウスクリーニング費用やその他の修繕費用を請求されることもなく、敷金が全額返還されました。
まとめ
賃貸住宅を退去する際、借主に住居の原状回復義務があるが、業者に過剰に請求されるケースは少なくないと言われています。
そのため、私たちは退去前に借主の原状回復の義務や費用の考え方についてしっかりと学びました。
- 原状回復の義務は、借主の故意、過失、善管注意義務違などによる損耗に対して発生するが、経年変化や通常損耗によるものは適用されない
- 借主の故意、過失などによる損耗がある場合でも、経年変化や通常損耗による価値の減少分については、借主が負担する必要はない
- 修繕範囲は、損耗部分を補修するために必要な最低限の範囲が基本である
また、業者と退去の立ち会いを行う際、事前に国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」に従って、判断するように伝えました。
その結果、借主が負担する必要のないハウスクリーニング費用(33,000円)をしっかりと断ることができました。
さらに、その他の過剰な請求も防ぐことができ、敷金は全額返還されました。
これから賃貸住宅を退去する予定の方は、業者からの過剰な請求に対応できるように、ガイドラインを確認して、借主の原状回復義務を理解することをおすすめします。